Deep House(ディープ・ハウス)とは – 音楽ジャンル
意味
狭義のDeep House
1988年2月、英国レスター・スクウェアにあるエンパイア劇場で開催されたイベント「Deep House Convention」が語源で、これは米国から招いたレジェンダリーDJ、Marshall Jefferson(マーシャル・ジェファーソン)と Frankie Knuckles(フランキー・ナックルズ)に対して敬意を込め、享楽的で商業主義的なハウスの楽曲とあえて区別するために命名された言葉でした。
曖昧な定義のまま生まれた「ディープハウス」という言葉ですが、厳密な本来の意味合いを「狭義のディープハウス」とするならば、フィリーディスコを原点としたシカゴ・ハウスおよびNYガラージ・ハウスの系譜にあるソウルフルでジャジーなハウスミュージックを指していると言えます。
電子音楽化と反復化
そしてハウスミュージック(現在のディープハウス)は単に4つ打ちに乗せて電子音楽化されたディスコミュージックではなく、誕生時にもう一つ重要なコンセプトを持っていました。(電子化よりもこちらの方が先で、こちらの方が革新的でした。)
それは、過去のダンスミュージックに対する考察から生まれた「ディスコソングの一番気持ち良いパートやフレーズ、リズムに特化して反復する」という編曲方法です。
(それ以前のダンスミュージックでは歌としての完成度が優先されていたため、ダンスフロアにいる客はそのパートがくるのを待ちわびるしかなかったのです。)
デトロイト・テクノにも継承されたこの手法は、単に歌モノを打ち込みに置き換えたポップス系のハウスとは異なる、大きな特徴となっています。
電子化以前の例として、この反復化はロン・ハーディがオープンリール・テープデッキと2台のターンテーブルを使ってアイザック・ヘイズの「I Can’t Turn Around」を元に、生音の段階でやってのけています。後にシカゴハウスの2つのアンセム「J.M. Silk – I can’t Turn Around」「Farley Jackmaster Funk – Love Can’t Turn Around」へと転化していった曲です。
Isaac Hayes – Can’t Turn Around ( Ron Hardy’s Edit) [1983]
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特にJ.M. Silkの「I can’t Turn Around」はNYでも熱狂をもって受け入れられ、この1曲だけを深夜から朝までぶっ通しでMIXしながらリピートしていたクラブもありました。また空気を読まずユーロビートを流し続けたDJがクラブオーナーに殴られ、J.M. Silkの曲を流すハウスDJに交代させられたというエピソードもありました。
電子音楽としての面からはすでにPaul Hardcastle(ポール・ハードキャッスル)のようなインストゥルメンタリストから「19(ナインティーン)」のような大ヒット曲が出ていたり、Hi-NRG(ハイエナジー)の分野でもローランドのTRサウンドは活用されていたため技術的に驚くほどのことはありませんでしたが、ディスコミュージックの反復化と複合することで衝撃的なインパクトのある新しい音楽ジャンルが誕生してしまったということです。ちなみにJ.M. Silkとは、Steve “Silk” HurleyとFarley “Jackmaster” Funkのコンビ名です。
J.M. Silk – I can’t Turn Around [1986]
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参考)mixmag – Stop calling it deep house
参考)reddit – What is real deep house?
”Not Everyone Understands House Music.”
1997年にエディー・ アマドールが生み出し、後にディープハウスのキャッチフレーズとなったメッセージ ”Not everyone understands house music.(誰しもがハウスミュージックを理解できる訳ではない)”。 商業主義的な音楽しか解さないリスナーとの間に一線を引き、ディープハウスこそが至高のダンスミュージックだと位置付けるエリート主義的なフレーズとも言えます。
BBC Radio 1 のダンス部門においてキャンペーンを張ったり、ハウス黎明期のDJ達が設立したオンラインショップ、Traxsource(トラックスソース)が同様のキャッチコピーを旗印としていることからも、ディープハウス至上主義を根強く支持する層が存在していることが分かります。
この思想はラスベガスの興行主たちが牽引する2010年以降のEDMブームが隆盛を極めるにつれ、「EDM系ダンスミュージックとの対立」という形で表面化し、軋轢を生んでゆきます。古参のハウスDJ達がEDMを「ベガス」という隠喩で呼ぶ理由はここにあります。
この対立軸が明確である限り「EDMはElectric Dance Musicの略なのでハウスもEDMの一種である」といった机上の空論は、30年前から電子化ダンスミュージックの宗主を自認しているハウスDJ達からすれば受け入れられないと言えるでしょう。
Eddie Amador – House Music [1997](1分30秒~)
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ハウスミュージックのカテゴライズ
「ディープハウス」という言葉は少なくとも90年代中盤頃まではキャッチフレーズとして頻繁に使われたものの、このような大雑把な名称は当時のカテゴライズには使われておらず、実際には2000年以降に一般化したカテゴリ名称でした。
例)2000年に設立されたDiscogsにおける1990年のNYガラージ・ハウスの表記
つまり現在のジャンル分けは過去の音源に遡及した結果にすぎず、だからこそ、80年代~90年代のどの楽曲を指すかについてもよく議論のテーマに挙がります。
ディープハウス系として挙げられるクラブ/イベント
- Paradise Garage (NY)
- Club Shelter (NY)
- The Warehouse (Chicago)
- The Sound Factory Bar and Sound Factory (NY)
- Body & Soul (NY)
広義のDeep Houseの登場
ただし最近では拡大解釈された「広義のディープハウス」の意味合いでも使われています。
こちらは歴史的経緯と無関係に、その名のごとく「Deep(ディープ)」という言葉の意味をそのまま感覚的に受け止めた用法です。
2010年代からTech House(テック・ハウス)の変種としてのポップス志向のハウス、Wankelmut、Klangkarussell、Robin Schulz、Felix Jaehnなどの楽曲が ディープハウスの名目で販売されはじめましたが、本来のディープハウスとはリズムセクション以外に関連性の無いものでした。
EDMとハウスのボーダーラインからはコチラ側にあり、ちょうどテック・ハウスやトロピカルハウスと接したサウンドの曲が多くみられます。単なるパーティーソングではない、落ち着いたトーンの曲調からディープだと感じられてもおかしくない曲を含んでいます。
新定義のディープハウスが登場した背景には、DTMの進歩によりハウスの楽曲スタイルで「踊れるポップス」をリリースするのが容易になってしまった事情があると言えます。その気になれば古典風のハウスも作れるがその再現にとどまるつもりはない、といった姿勢と余裕も伺えるので、一概に否定するわけにもいきません。
Larry Leavan(ラリー・レヴァン)の影響下にあるアンダーグラウンド・ダンスミュージックとは全く異なる曲調のハウスであるため、古典派からは指摘を受け続けていますが、プログレッシブ・ハウス等「ハウス」の名を冠したEDM系の楽曲と明確に区別できる便利さもあり、実際にはもう少し柔軟な解釈で使われているようです。
狭義のDeep Houseの例
挙げればキリがないため、メジャーなところで一例にとどめます。
Marshall Jefferson – Move Your Body (Mixed by Ron Hardy) [1986]
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Mr Fingers (Larry Heard) – Can You Feel It [1986]
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Underground Solution (Roger Sanchez) – Luv Dancin’ [1990]
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Robert Owens - I’ll Be Your Friend [1991]
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Masters At Work Feat. India – I Can’t Get No Sleep [1993]
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Moodymann – I Can’t Kick This Feelin When It Hits [1996]
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Pépé Bradock – Deep Burnt [1999]
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DJ KOZE – Magical Boy [2015]
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The Black Madonna – He Is The Voice I Hear [2016]
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広義のDeep Houseの例
それを表現するのにふさわしい言葉がないため、結果的にDeep Houseとされる例です。
Duke Dumont – Need U (100%) feat. A*M*E [2013]
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Secondcity – I Wanna Feel [2014]
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Route 94 – My Love (Official Video) ft. Jess Glynne [2014]
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David Zowie – House Every Weekend [2015]
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Dusky – Cold Heart [2017]
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