Balearic(バレアリック)、Ibiza(イビザ/イビサ) Part 1 黎明期

公開日:  最終更新日:2019/08/22

イビザ島とは

スペイン・バレンシアの東約80km、Baleares(バレアレス)諸島州に属する島の名前です。カタルーニャ語表記のEivissa(アイヴィーサ)が正式名称であるため、カナ表記では「イビサ」とするのが正しいのですが、欧米圏で「IBIZA」と表記されている都合上、日本でもイビザと呼ぶケースが多く、本コラムでも「イビザ」表記を使用します。(英語圏の発音はイビータ/アイビータに近い)その他、イビザ島には「White Isle(ホワイトアイル)」という愛称もあります。

イビザ島はは元々ヨーロッパの富裕層向けの、のどかな夏のリゾート地でしたが、1970年代からヒッピー達が集まりパーティ/ディスコ文化を形成するようになりました。80年代からイビザのディスコカルチャーは徐々に世界中に知れ渡ることとなり、現在では島中いたるところにディスコ/クラブが点在する「クラバーの聖地」にまで発展しました。

イビザのクラブは6月~9月の夏季の間だけオープンされ、10月にはクロージングパーティーが開かれます。

Balearic=バレアリックとは

島そのものが欧米のセレブ達の夏のリゾート地で至る所にナイトクラブがあるイビザ島のパーティ文化から発生した音楽ムーブメントのことです。バレアリック・ビート、バレアリック・ハウス、バレアリック・サウンド、バレアリック・ミュージックを短縮したものです。

Balearic Beat(バレアリック・ビート)を語るとき、音楽ジャンルの括りはあまり意味を持ちません。なぜなら単に「Ibiza(イビザ)的」とみなされた楽曲の集合体に過ぎないからです。

イギリスを含むヨーロッパ各国、アメリカで制作されたダンスミュージックの中から、イビザ独自のクラブ文化の価値観(バレアリック・コンセプト)で選り抜かれた、あるいは意識して制作された曲が、バレアリック・ビートなのです。いちいちイビザ島のDJが認定したり、プレイされたかの確認を経ているわけではなく、イビザ向きだと認知されれば=つまり選曲ポリシーに合致すればそれがバレアリックだという事になります。

ではイビザでウケた曲、「IBIZA Hits Now」と題されたCDに収録された曲がすべてバレアリックなのか?と問われると、それもNoです。なぜなら世界中のクラブで普通にヒットしたド派手なダンスミュージックも、同じようにイビザで流れるからです。

(※ 昭和の映画音楽ブームと同じく、最近はIBIZAアンセムと名乗る信憑性の低いコンピレーションも氾濫しているので、公に認知されたアンセムを選別するのに苦労します。ただし曲によっては評価が固まるまで数年かかる場合もあります。そんな場合は、Pacha Anthemsで検索すると概ね正解に近い選曲リストが得られるでしょう。ただしそのPachaですら近年は混迷しています。)

そして、イビザ的な個性は2000年代前半くらいまでに各国によって吸収し尽くされ、2010年代以降は、すでにEDMやDeep House(ディープハウス)、Tropical House(トロピカル・ハウス)の中に取り込まれてしまった結果、最近ではこれといった特色が無くなり、サマーヒットのシンボルとしての意味合いが強くなって来ています。

そんな訳で、ここでは2000年代までの期間で、普通のクラブヒットやトランス、チルアウト、EDM等をなるべく除外した、明らかに「イビザ臭」がプンプンと匂う楽曲をざっくりと紹介し、イビザ/バレアリックという日本人にとってワケの分からないものを解明してゆきます。

 

 

80年代 黎明期(れいめいき)

ゴッドファーザー・オブ・バレアリックビート、DJアルフレド

1976年にアルゼンチンで始まった軍事政権による国家テロ「Dirty War」によりロックコンサートを企画していた容疑で刑務所に収監され、後にスペインに逃れてイビザの有名クラブ Amnesia(アムネジア/アムネシア)のレジデントDJに就いた、Alfredo(アルフレド)の活躍に始まります。1987年にこの店を訪れたPaul Oakenfold(ポール・オークンフォールド)、Danny Rampling(ダニー・ランプリング)らイギリスのDJ達が、DJ Alfredoの選曲に衝撃を受け、ロンドンの街に「Ibiza Reunion」「Spectrum at Heaven」といったバレアリック・スタイルのパーティを興します。

したがって、黎明期のバレアリック・ビートは、DJ Alfredo(アルフレド)とPaul Oakenfold(ポール・オークンフォールド)の選曲が基本になります。

DJアルフレドのプレイリストはすべてが特別な訳ではなく、David Mancuso(デヴィッド・マンキューソ)のようにマニアックな選曲でもありません。80sディスコの真っ最中ですかから、Tears for Fears、Grace Jones、Prince、Depeche Modeなども当然のように流れます。また初期のハウスミュージックなどもお馴染みのものです。入手出来ないような特別な音楽という訳ではなく、ただ「何か選曲の方向性が違う」のです。日本のディスコのようにユーロービートやブラック一辺倒ではなく、当時のロックやポップスから自由に幅広く選曲し、スローなナンバーも多く含んでいます。

ヨーロッパの白人文化ですので黒すぎる(ファンク色の強すぎる)曲は排除されており、ブラック寄りでもプリンスの曲やFunka Latina(ファンカラティーナ)など白人にもシンパシーが得られる音楽が中心になっていたようです。この傾向は現在まで一貫しています。

重要なのは「バレアリック・コンセプト」がミュージシャンの側にフィードバックされ、90年代以降にカテゴリ化してゆくことになった点です。

アルフレドは1990年以降イビザの有名クラブPACHA(パシャ/パチャ)のDJに就いて活躍するため、Club Pachaのコンピレーションアルバムもバレアリックビートの参考となります。

イビザの重鎮アルフレドはバレアリック/イビザの選曲ポリシーの中核としてEDMを一切プレイしないDJですが、近年ではラスベガス系資本の進出にともなって一部のクラブではEDMもプレイされているようです。

 

代表曲

フランスのシャンソン歌手エディット・ピアフの名曲を米国ディスコ音楽プロデューサーの大御所、Tom Moulton(トム・モールトン)がプロデュース。地中海のチルアウト系ポップス~ファンカラティーナの流れからもこれは納得の選曲。

Grace Jones – LA VIE EN ROSE [1977]

アンディ・ウォーホルを取り巻くセレブの社交場であったNYのメガディスコ「Studio 54」のレジデントDJにして人気リミキサー、かつマドンナの恋人でもあったJohn Benitez = Jellybean(ジェリー・ビーン)も80年代にカバーした有名曲。

Candido – Jingo [1979]

後にイタロハウスとして大ヒットしたFPI Projectによるカバー曲の源流はイビザのDJ、アルフレドでした。1980年のRichie Havensによるカバーバージョンも同様に扱われます。

Lamont Dozier – Going Back to my Roots [1977]

Black Box(ブラック・ボックス)の「Ride On Time」「Everybody Everybody」と並び世界的にヒットした90sイタロハウスの代表曲

FPI Project – Rich In Paradise [1990]伊

イビザ島のディスコにピンクフロイドが?と意外ですがまだヒッピー文化を引きずっているからです。
Pink Floyd – Another Brick In The Wall [1979]

巨匠ヘンリー・マンシーニによる映画「ピンク・パンサー」のテーマ。しばしばイビザ特集に組み込まれる曲です。もうツナギなんてどうでも良さそうですね。

Henry Mancini & His Orchestra* – The Pink Panther Theme

Phil Collins – I’m Not Moving [1981]英

ジョルジオ・モロダーとパトリック・カウリーが生み出したミュンヘン・ディスコの歴史的名作。

Donna Summer – I Feel Love [1982]

UKパンクの雄、クラッシュの楽曲中でも最もパーカッシブなロッキンディスコ・ナンバーです。

The Clash – Rock the Casbah [1982]

Eurythmics – Love Is A Stranger [1982]英

Rufus & Chaka Khan – Ain’t Nobody [1983]米

80sのカルトソング、ジョージ・クランツの「ディン・ダ・ダ」。後にM/A/R/R/S(マーズ) の「Pump Up The Volume」で使用されることになります。
George Kranz – Din Daa Daa (Original 12″ Version) [1984]独

ART OF NOISE – MOMENTS IN LOVE [1984]英

Tears For Fears – Shout [1984]英

Erasure – Who Needs Love (Like That) [1985]英

英国BBCのTV音楽番組「The Old Grey Whistle Test」のテーマ曲であったArea Code 615による1972年「Stone Fox Chase」のカバー曲。

ICARUS – Stone Fox Chase [1986]加

Thrashing Doves- Jesus On The Payroll [1987]英

ミニマル、アンビエントに走った選曲も。知性的な楽曲を混ぜてくるあたりもイビザです。

Manuel Göttsching – E2-E4 Part 1 [1984]独

ハウス/テクノの台頭

マニュエル・ゲッチング「E2-E4」のハウス版、スエノ・ラティーノ

Sueño Latino – Sueño Latino [1989]伊

808 State – Pacific State

「ジャズ、アンビエントバードサウンド、ローランド808ドラムマシーンのキック、エキゾチックでトロピカルなサウンド」でイビザをダンスミュージックの楽園にした曲として英国BBC Radioが選ぶ「ダンスミュージックを形作った過去30年史上の重要曲」にも選出されている曲です。

808 State – Pacific State [1989]英

「ウッハー」の掛け声は実はマイケル・ジャクソン「Working Day and Night」からです。

Richie Rich – Salsa House [1989]英

Sterling Void & Paris Brightledge ‎– It’s All Right [1987]米

Joe Smooth – Promised Land [1987]米

後にNYハウスで名を馳せるトッド・テリーがFreestyle(フリースタイル)の影響下にあった頃、オレンジ・レモン名義でリリースした曲。元ネタは1973年 Babe Ruthの有名レアグルーブ「The Mexican」。

Orange Lemon (Todd Terry) – Dreams of Santa Anna [1988]米

Derrick May – Strings Of Life

1987年のDerrick May(デリック・メイ)によるRhythim Is Rhythim名義のオリジナル曲がデトロイト・テクノのアンセムですが、現在のイビザ・アンセムとしてはちょいとオシャレな2004年のDanny Krivitのリエディット・バージョンの方が使われます。80年代にはMDMAを食べた客が感動の涙を流しながら踊り狂ったいわくつきの曲、日本では「マネーの虎」のイメージですね。

Derric Mayのお仲間、Kevin Saunderson(ケヴィン・サンダーソン)がカミさんをヴォーカルに据えてリリースしたこのデトロイト・テクノもイビザ・アンセムです。
Inner City – Good Life [1988]米

 

Part 2につづく

 

 

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